2013年4月17日水曜日

日本の政治と外交はどこに向かっているのか?〜コロンビア大カーティス教授講演

金曜日にソウル大学国際関係大学院で、「日本の政治と外交はどこに向かっているのか?」という講演会がありました。

3部構成で、
1部:日本政治研究の大家であるコロンビア大学ジェラルド・カーティス教授の講演
2部:カーティス教授、ソウル大のパクチョルヒ先生、元朝日新聞主筆の若宮啓文氏によるディスカッション
3部:会場との自由討論
でした。

ちなみにカーティス教授はパクチョルヒ先生がコロンビア大学に留学していたときの指導教官で、驚くべきことに講演会は全て日本語で行われました。
「朝日新聞」「ソウル」という名前が入るとどうしても左なんじゃないかと思われる節がありますが、議論は面白いものでした。

1部・カーティス教授の講演

「安倍政権はどこに向かうのか?外交はどう変わるのか?」という大きなテーマです。
ほぼ、日本人は知ってる内容だと思いますが、改めてまとめてみます。

安倍政権発足から100日経った。1st hundred daysと言われ、国民に方向性を見せるために思い切り走るものだが、ここまでお見事としか言い様がない。私はこれまで元気をつけなきゃいけないと言ってきたが、安倍さんは強い日本と言っている。アベノミクスで明るい将来があることを多くの人が信じている。国内が前向きになっているだけでなく、海外投資家も日本に注目し、株が上がり、円が下がり、人気が上がっている。
6年前に1年間やった人とほんとに同じかと思う。前回は「美しい国」を唱えて、抽象的で国民には我々の生活との関係はあるのかと思わせてしまった。まさに安倍さんは失敗は成功のもとを具現化している。「美しい国」は使わずに、反省して学んでいる。
アベノミクスもわかりやすい。「三本の矢」。財政政策、インフレターゲット、成長戦略。新しく聞こえる。12月の総選挙のときには自民党が政権とれ、安倍が総理になれというわけでじはなく、3年間のチャンスを逃し続けた民主党を追い出したかった空気があった。投票率は低く、民主でないなら自民しかなかった。しかし現在は70%の支持がある。

3本の矢。1つめは財政政策。12月の総選挙を受けて、2012年度、2013年3月までの予算に補正予算を組み、追加的に10兆円投入した。そのうち6兆円が公共事業。財政刺激で成長率を短期的に上げる。理由は2つ。どうしても7月の参院選に勝ちたい。10月には消費税増税について確認し、上げるかどうかの決定をする。成長率なかったら上げられない。安倍さんは野田さんに感謝するべき。自民党が元々出していた、国民受けの悪い増税案を代わりにやって、批判を代わりに受けた。ただこれは新しいものではない。成長率は上がるが、すぐ下がる。GNP比200%の赤字があるので本来的には正しくないが、今は必要かもしれない。持続可能な成長につなげるためのつなぎ。

新しいのはインフレターゲット2%。マーケットにも大きな影響があった。デフレだと、来年買うのも今年買うのも変わらないが、インフレだと今年買わないと来年高くなる、ということで投資や消費を刺激するという根拠。実体経済に影響はないが、マインドは変わっている。ただ、実体経済が変わらないとアベノミクス意味がない。逆に赤字が増えてDisasterになる。マスコミはあまり取り上げないが。財政・金融政策の最初2本の矢で時間を稼いで、3本目をやらなければならない。物価上昇率については、食料品・エネルギーの輸入品の値段が上がってインフレと判断するのは早計で、賃金が上がらなければ意味がないので賃金に近いものを物価指数として使うべき。また、安くお金が借りられても貸す相手がいないという議論もある。企業が海外で投資する可能性は大いにある。

3本目。構造改革は時間かかるもの。明日から、はいできました、というものではない。これは産業競争力会議が議論している。ローソンの新浪さん、楽天の三木谷さん、武田の長谷川さん、竹中さんなどがいる。この前産業競争力会議のメンバーの一人と食事したら、その人は怒り狂っていた。メンバー10人のやりたいことが違う。経産省がまとまらないように議論を誘導する。結局安倍のリーダーシップがないと結論でない可能性がある。抵抗勢力が絡んでいろんなことを一度にやろうとしても無理なので、3つか4つに選んでやればいい。

参院選後の内閣改造をやったらアベノミクスは終わる。1年半、2年はやらせないと、「大臣はお客様」のまま。Yes! Minister!検討中です!と言ってれば大臣が代わって何も進まない状況を打破しないといけない。大臣の1人と食事して、大臣を長くやれ、と言ったら、その代議士曰く「長くやるかは安倍さん次第」「この前の選挙で大勝ちしたから、大臣になりたい人が順番待ちをしている。代わらないと不満が出る」ということで、どれほど日本政治が変わるかはクエスチョンマーク。

なぜいま自民党がこうしたことをやっているのか。3年前に野党転落、下野してショック。JA、医師会の支持があってもダメだった。彼らの言うことを聞いてもダメということでTPPに踏み切ろうとしている。参院選後に決めるものだろうと思ってたら、前に決めるようだ。アンケートを見ても、過半数の日本人は支持するだろう。日本の社会は変わった。集票マシンが昔のように機能しない。

では、What is to worry about?
1つ目は三本目の矢を撃つか。これはもう話したので省略。2つ目に外交問題。3つ目に参院選後の憲法改正。

外交問題について。NY Timesは右派に属する安倍が総理になってすぐ、批判の記事を出した。アメリカでも大きな関心があり、従軍慰安婦問題について「強制ではなかった」と発言したときは批判がおきたし、ヒラリークリントンは"sexual slavery"という単語を使えと命令した。いまのところ安倍さんは慎重。タカではあるが、慎重なタカ。Pragmaticな頭を持っている。オバマが大統領になってから麻生鳩山菅野田安倍と変わってきたが、安倍が長期になりそうなことで、どういう人かみてみたい、という関心がある。

日米首脳会談で3つの安心感があった。
1つ目はTPP。安倍は国民に嘘つきと思われず、だましてやるのはよくないので早くやると言った。2つ目は普天間。橋本政権から協議してきた問題について、民主党政権を経て、安倍はやると言った。辺野古への移設。うまくいくかはまだ見守る必要あるが。3つ目に中国に挑発的なことを言わなかった。これはアメリカを困らせない。
なお、安倍やマスコミは「日米同盟が完全に復活」と言ったが、そもそも危機的な状況にはなっていなかった。日米関係は根深く、簡単に崩れるものではない。

対中国外交については、慎重にやっている。戦略的互恵関係の話。尖閣については係争中であることを認めて、国際的なPRをやったらどうか。現状、中国だけがPRしていてPRに負ける可能性もある。鄧小平は棚上げ論を出している。

独島・竹島について、日本は韓国の実効支配について納得している。別に取り返そうと思っていない。ありえない。考えていない。ただ建前上、日本の領土であるとは言っている。韓国は実効支配してるのだから言及して刺激するな。少し前までは竹島のことを知ってる日本人はいなかった。いまは係争地であるという意識が広がっている。解決策は、言わない話さない無視する。これで日本政府も問題にしない。国内政治のために使わない。nationalismを刺激して人気が出るかもしれないが、国益を損なう。

慰安婦問題について、日本はlegalisticな対応をし、legal issueは解決済、というが、心開いてI'm sorryと言えばいい。大きくならないように配慮すべき。
ただ一方で、月刊朝鮮の記者が安倍に取材して、「国防軍、集団的自衛権を言う安倍は語極右じゃないか」と質問したところ、「韓国は両方持ってるのになぜ?私が右なら全世界が右だ」と言ったというが、これはその通り。安倍が言ってることが広がっている。3つの問題がある。1つは偏見。「日本にはmilitarismのDNAがある」という偏見を改めるべき。2つ目に「謝罪がない」「信用できない」ということ。受け入れるべき。3つ目に日本とドイツの違う点があり、ドイツはNATOに入っているが、東アジアには地域的安全保障の枠組みがない。これを作っていくべき。日米安保の視点でも、アメリカはリーマンショック以降日本に軍事負担を求めたい。これからはsecurity communityを作っていき、お互いに戦争はありえないと思わせなければならない。

憲法改正について。参院選後に経済から憲法に重心を移そうとしたら、drop the ball、肝心の3本目はやらないのか、という印象を与えかねないので、経済には注力し続けるべき。国内世論は2分されるし、中韓米の心配も乗り越えなければならない。

2部・パネルディスカッション

元朝日新聞主筆・若宮さん
なぜ安倍総理か。安倍が返り咲くと思った人は少なかったはず。石破は党員からの人気があった一方で安倍は議員に人気があった。ここには外交的要因も働いたと思う。8月に李明博が竹島に行った。天皇に対する発言もまずかった。9月には尖閣問題があり、北朝鮮もある。その東アジアの空気が安倍に有利に働いたのではないか。韓国・中国・北朝鮮でホップステップジャンプのジェットスタートが切れた。安倍にはお爺さん・お父さんに負けぬ実績をつくるための憲法改正という見果てぬ夢があるように見受けられる。中国韓国が持っている軍を日本は持つなというなら、日本の平和政策を評価してもらわなければならない。

ソウル大・パクチョルヒ先生
次の参院選に勝てば、2016年まで3,4年間自民党安定政権が続く。2016でも野党が勝てるかというと?で、安倍が長く続くだろう。前回政権時はideologueで、「国民の生活が第一」と言った小沢に負けた。今回、増加した無党派、流動派へのメッセージとしてnationalisticになっている面もあると思う。教科書検定、靖国問題、cautiousではあるようだが火種はある。従軍慰安婦は日本がアクション起こさないと解決難しい。防衛力が上がれば昔の日本に戻るのではないかという疑念も上がる。ancient regimeに戻ることへの不安も理解してほしい。

カーティス教授
安倍はいつまで慎重か?という懸念はアメリカも全く同じ。real安倍はいつくるのか、今とは別のことをやりたいのではないかという不安を今までの発言を見ていても感じざるを得ない。憲法に欠点があるから、ここを直す、というのではなく、経緯を問題にして、全部を書き直す、と言っていることに不安がある。「戦後レジームの脱却」というが、民主主義、自由、経済成長、平和の戦後レジームからの脱却は何を意味するのか。イデオロギーと現実がある中で、どう生き残っていくのか。日本は「対応型外交」をする。時流に乗る、対応する、検討する外交。明治維新時、吉田政権時など安定してるときはうまくいくが、流動的な今はどうか。自民党内でのCheck and Balanceがある。派閥争い、タカ派とハト派の争い。ただ、第2党がやや右の維新の会になる可能性があり、自民党の派閥争いは弱くなっている。党内論争はいい面もあった。ただ、それでも変な方向にいくとは思わない。

中国は日本を極右にしたければ今の政策を取り続ければいい。右に行かせたくないなら「普通の国になる必要ないよ」と言い、信用させること。いい関係を保てるように考えるべき。
安倍は靖国参拝しないと思う。彼は現実的で、国が得しないことはしない。さらに、もともと右だから右から批判されないこともある。Nixon goes to Chinaというが、共和党だからできた。
一方で、日本は野党が弱くなりTyranny of Majorityが起こりやすくなっている。憲法96条、国会議員の2/3の支持で、という部分を過半数にするというが、そのままにしておいた方が良い。アメリカの憲法改正規定は日本より厳しい。上下院で2/3、州の3/4、州議会の過半数。

3部・質問と応答

Q.公明党は連立政権のパートナーとして自民のブレーキになるはずだが、働いていないのでは?
ブレーキとして働くはずが、あまり自民と変わらなくなってきている。根本的に違うのは憲法96条に対する態度。

Q.アベノミクスのリスクは?
アベノミクスの取り組むべき成長戦略は人口減少・高齢化への対応、女性活用。
成長戦略なしではAsset Bubble EconomyでABEになってしまう。

Q.日韓領土問題の解決策は?
独島・竹島の解決策は、ない。問題にしないことが一番の解決策。

Q.国内の慰安婦問題が大きすぎて、日韓ともにとれる政策に限界がある。問題として大きくなる一方で、日本が解決に前向きでも、韓国が妥協しようとしても、解決されないのではないか。
日米韓強化のために慰安婦問題は解決すべき

Q.現在の日本は大正デモクラシー後に暗殺政治へと進んだ昭和を思い起こさせる。教授は政治の右傾化はないというが、それを思い起こさせる。東京大学の藤原帰一教授曰く、1%の右翼の主張に何も言わなくなったそうだ。
日本は右傾化していない。石原慎太郎を国会議員ではなく都知事にしておいたのは国民の知恵。現在は国会議員だが影響力は0。安倍も河野談話も見直さないこととした。関係改善、とまではいっていないが、いい関係を持ちたいことは間違いない。左がなくなり、右が増えてきたが、戦後の日本はうまくバランスをとってきた。中間層は変わってないのだから、そこにめがけて政策をやるべき。
周辺国が右傾化している!というと、本当に右傾化する。安心できる、つきあえる、ならしない。これから普通の国になろうとするとき右傾化していると言われるフラストレーションがある。
参院選後に民主党はなくなると思う。左だからダメなのではなく、鳩山由紀夫という無能と、壊し屋小沢を中心に置いた失敗。民主党の初めての総理大臣が鳩山ではなく野田だったら歴史は変わっていた。

Q.安倍は尖閣諸島の対応見ても、ずいぶん右な気がするが。
Softではないが、挑発的ではない。中国は問題を解決しようとすればできる。中国がこんなに早く、アグレッシブに出てくるとはびっくり。19世紀のパワーポリティクスの感覚でやっている。

Q.解決に向けた日韓のネットワーク構築はどうすればよいのか。留学もその一つ。
日本は大胆な改革をしない。金泳三の時代に韓国はglobalizeの支援をした。韓国はどの学生も英語ができるが、日本はできない。自分のいるコロンビア大学では、5年間で中国人が4倍で2100人、韓国人が変わらず800人、日本人は1/4になり180人。日本では外国に留学するインセンティブがなく、プラスにならない。日本は、韓国は日本に教えることがないと思っているが、高等教育は韓国を参考にするべき。political willの問題。金を使え!

自分のした質問

カーティス教授に2つ。
Q.アメリカは日本よりも硬性憲法だと言ったが、軟性憲法にしている国もある。これまで硬性憲法できた日本が軟性憲法を採用するのはリスクがあるという意見もあると思うが、軟性憲法としていく道もあるのではないか。
主要先進国は硬性憲法。やりやすくすることがいいのかという議論よりも、変えること前提で意図が違うような気がする。

Q.安倍のFacebookでのコメント欄での議論が話題になった。日本人がアメリカ在住のフランス人になりすまし、日本はこれまでに何回も謝罪を行い、十分な賠償をしてきたのに、中韓は未だに一部政治家の発言を捉えて批判し、また謝罪と賠償を要求することに苛立ちを表明していた。これは話題になり、かなり共感を集めていたが、慰安婦問題を解決しようとしてもこの心理があり政府は賠償できないのではないか。
謝罪より姿勢と態度が求められている。理解と対応。謝罪、賠償金は必要とされていない。謝罪が求められていると考えるのは日本の韓国に対する理解不足。

途中休憩の時間に若宮氏に1つ。
配布資料として、中央公論での元毎日新聞の岩見隆夫さん(改憲派)と若宮さん(護憲派)の対談記事があり、そこから。対談は、毎日新聞の岩見さんが

サンデー時評:若宮前朝日新聞主筆に反論がある
http://mainichi.jp/opinion/news/20130123org00m010005000c.html

という記事を書き、そこから実現したもの。こうした記事は、個々人の主観を知るにはいいですが、その根拠に何を捉えているのかはわかりづらいところがあるので、

Q.若宮さんは九条の条文と実態に「乖離があるという問題は抱えつつも、国民の間には九条もあって自衛隊もあるという状況がいわばワンセットで定着している現実がある」といことで、これは国民アンケートからそういう推測をしたと思える一方で、国際的な目として「「実態は軍に近くても、専守防衛に徹し、あえて軍とは名乗らない」ということを誇ればいい。これは日本独特の考え方かもしれないけれど、世界の多くは評価してくれると思う」と書いているが、これはどういったことを根拠にした意見なのか。

ということを聞いたところ、「日本の平和主義を評価する」とか「憲法9条を評価する」とかそういうアンケートであったり意見を聞いたことだからだそうです。

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